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イギリスレポート〜イギリスの子どもの危機管理の現状〜(くみこ@ロンドン)

 夫の出身地、イギリスのロンドンの北のはずれに住んで、早5年ちかくになります。 こちらに来た時に10歳、6歳から、2歳半だった子ども達も14歳、10歳、7歳にな り、子ども達と幼稚園からハイスクールまで、はからずも保護者として経験することに なりました。


 イギリスでは、日本との一番の違いは、子どもの福利はパラマウント(何をさしおいて も最優先される)、子供は社会のものである。と法令で明言されていることです。子どもは、親のものだけではない、とはっきりうたっています。だから、子どもを守るのは、みんなの責任と大人が自覚しているところです。

 残念ながら、ロンドンは日本ほど安全ではありません。車上あらし、空き巣、強盗、 強姦、万引き、窃盗、麻薬と気を許しては暮らせません。生活するエリアで、危険さにも大きな違いはありますが、比較的治安がよく日本人の駐在員が好む私達のエリ アでも、いろいろな話しを聞きます。たった今も、警察官が我が家の4件隣の家に、 昨夜泥棒が入ったけど、なにも見たり聞いたりしなかったか?とたずねて来ました。 また、私自身、3年前に近所のスーパーでカートの子どものせに鞄をおいて、90度回って卵を選んでいる一瞬に、すべてはいっていた鞄を盗まれたことがあります。また、 娘は13歳の時、下校途中、道を歩いていて、いきなり理由もなく、同じくらいの年 の女の子にいきなり殴られ蹴られて、しばらくひとりで道を歩けないなどという、 経験もしました。

 そんなイギリスですが、さて、公立の幼稚園は3歳で始まります。まず、その入学が決まって、書類の手続きが終わると、次にあるのは家庭訪問でした。担任の先生2人が家へやってきて、すすめたお茶も辞退され、リビングルームで子どもと他愛のないお しゃべりをして帰られました。あとで、気がつきましたが、ひとりの先生は「ナーサ リーティーチャ−」ー幼稚園教諭で、もうひとりは「ナーサリーナース」ー幼稚園看護婦となっていました。娘が幼稚園を卒園して、しばらくしてから教えられたのですが、ナースは文字どおり看護婦で、3才児のクラスに特別な資格を持つ看護婦を全 国の各クラスに配置することで、子どもの家庭における健康管理の状態、発育具合、精神的な成長のチェックやサポートなどの役割をになうそうです。入学前の家庭訪問は、 子どもの環境をチェックするためだったんだな、とあとになって気がつきました。親からの肉体的、感情的、また性的虐待、育児放棄(ネグレクト)等も、このナースが重点的に子どもを毎日見守ることで早期に発見しようとする、政府の政策の一貫なのですね。 3歳以下の乳児については、定期的に「ヘルスビジター」と呼ばれる子ども専門のナー スが家庭を訪問して、子ども達を見守っています。

 さて、幼稚園がおわるといよいよ小学校(5歳から11歳まで)です。 日本との一番の違いは、3年生にあがるまで責任のある大人(通常14歳以上)が、 小学生の送り迎えをしなければいけない所です。朝も、晩も毎日です。朝は先生が校庭まで出てきて、申し送りをするまで、帰りは、先生が保護者が迎えに来ていること を、ひとりひとり確認して、やっと教室から出してもらえます。ですから夫婦共に働 いているファミリーは、ナニ−(子どもの養育かがり)や、オーペア(ヨーロッパ各地から英語を習いに来ている若い女性達が各家庭に住み込んで子どもの世話や家事を手伝 う)が、子どもの送り迎えをしています。やはり、誘拐、交通事故等から子ども達を絶対に守るという信念が日本と違っているように思います。

 小学校3年以上になると子ども達はひとりで通学することが可能となりますが、見る限りでは、ひとりで行き来する子は絶対的少数で、ほとんどの保護者が大きくなっても一緒に行き来しています。ひとりでふらふら歩いている小さな子どもをみると、あまりに見なれない光景なので私でもぎょっとするようになりました。 お友達の家にいく時も、お稽古事にも必ず保護者が送り迎えです。私ももちろん例外ではなく、学校、サッカー、ピアノとタクシーの運転手よろしく車で走り回るしかな く、家族の負担はとても大きいのもがあります。学校、お稽古、ショッピングなど、 私も1週間に平均250キロも車を走らせており、腕はゴルフ焼けではなく、運転手風どかた焼けで、一時期帰国の際、百円ショップで運転用の手袋を手に入れました。 全く家族専用、白手袋運転手となりさがっています。

 それに加え、子どもを保護者無しで、家においておくことも、ほとんどしません。サッカーのお迎えも、ピアノのレッスンの送り迎えも、ちょっとしたお買い物も、妹や弟、 姉や兄まで車にのせて行きます。わたしも、夫に、子どもが7歳になるまでは絶対にひとりで家に置いてはいけないと、言い渡されました。(昼間は会社に行っていて、何もできないくせに、そういうことを言うと思ってけっこう、むかっとしましたが..)

 余談ですが、うちのように、最寄りの学校が宗教を母体としているために受け入れてもらえなく、少し遠いため、子どもを学校まで車で送り迎えをする家庭もかなり多く、 ロンドンの朝の渋滞を起こす車のうちの20%はスクールランと呼ばれる学校の送り迎えの為に走り回っている車だそうです。とても異常と言えば異常な状態ですね....。 そして、車にチャイルドカーシート、ブースターシート無しで、ましてやシートベル ト無しなどで子どもを乗せるのはもってのほかで、ほとんどの親が子どもが相当大きくな るまで、後部座席に相応しいシートを用意し、子どもを乗せています。きっと義務なのだろうと思っていましたが、調べてみると、義務付けられてるのは3歳以下の子を前の座席にのせる時だけだったので、逆に面喰らってしまいました。シートベルトと言えば犬用まであるお国柄、子どもと犬が後部座席に仲良くシートベルトという、光景も 見かけられ、微笑ましい限りです。

 また、この国には National Health Service(NHS)と呼ばれる、国民皆医療システム があり、いろいろな問題を抱えてはいるものの、国民であるか、一定の条件を満たせば、医療費は一切無料です。心臓病になって手術をしても、ガンになっても、かぜも出産も無料です。昔のように、「揺りかごから、墓場まで」という夢のようなシステムはさすがに崩壊しましたが、医療については未だにこのなごりを引き継いでいます。 (一部、薬の処方せん代については、収入のある大人は有料ですが、薬自体は無料です)。 うちの娘も数年前、家の階段で足を滑らせて落ち、足の骨を折りましたが、まず、かかりつけのGPと呼ばれる登録したホームドクターから、地域の大病院のA&E (アクシデント アンド エマージェンシー 救急部門)に連絡され、治療を受けま した。痛み止めの薬からギブス、X線まですべて無料でした。 これも、あとから知った事ですが、各病院のA&Eには、NAI-Non Accident Injury というリストがあって、子どもの少しでも怪しい怪我、例えば歩けない赤ちゃ んなのに足を骨折しているとか、たばこによると思われるやけど、からだに痣があるなどは、リストされ、必要であれば地域の社会福祉員に即座に連絡されます。普通の けがでも、たびたび病院に連れてこられるようなことがないか、このリストをチェッ クすれば誰が治療にあたってもわかるシステムになっていて、病院も子どもの福利に大 きく関与しているのです。うちの娘もあの骨折の時、リストされたのでしょうか?ちょ っぴり気になるところです。

 最近のニュースによると、いまこの国では、このような子どもを守るシステムが、よりもれなく働くように、すべての子どもに番号の入ったIDカードを持たせることが検討されています。子どもがあちこちに動かされたり、引っ越したりして、地域事に存在す るNIAのリストで追跡できなくなったり、社会福祉員の目からこぼれてしまうこと を防ぐためだそうです。

 私は、いま、NHSで日本語と英語の通訳をしていますが、仕事上の秘守義務はトレーニングで一番に徹底して教えられます。が、子どもの通訳に立ち会った際、その子がもし、なにかおかしい、隠している、権利を周りの人間に犯されているなどと感じた場 合は、その秘守義務を破って報告しなさい、と教えられます。 社会福祉員は子どもの権利だけでなく、基本的な人権、人間として最低の生活レベルの確保、(家庭内暴力、生活保護、訪問看護の手配、虐待等)など、特別の教育を受けた人で、関連機関と連係して必要な人にできる範囲での最善の措置を決めて行きます。 刑法で裁くことのできない青少年に関する問題もこの人たちが関与して、処遇を決めます。

 このように見てみると子どもは医療機関、教育機関などあらゆるエリアから、守る努力をされていることがわかりますね。

 最後になりますが、新聞に、こんな話がのっていました。
 数日前の朝、大病院の駐車場で駐車料金の前払いチケットを自動販売機で買っているちょっとの隙に、カギをつ けたままの車が盗まれてしまいました。その車にはなんと、生後5週間の赤ちゃんが のったままだったので大騒ぎになりました。とても大勢の警察が動員され、ヘリコプターや、警察犬も出動して、大捜索がはじまり、しばらくして乗り捨てられた車は発見されました。が赤ちゃんは見当たりません。
 夕方になって、27歳の男が赤ちゃんを抱いて警察に自首してきたそうです。まさか、あかんぼが車に乗っていたなんて、 大誤算だったにちがいありません。子どもを無事に返したその男は、赤ちゃん相手に、 本当のワルにはなりきれなかったんですね。 殺伐とした話が多い中で、子どもの無事保護という報に、救われた気がしました。