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月刊「社会教育」2001年10月号(財団法人 全日本社会教育連合会)掲載原稿

「私の手作り安全教育」で子どもの危機回避能力アップ!
   〜子どもの危険回避研究所の活動から気付いたこと〜
   (所長 よこや まり)


     

◆はじめに

 ・明石市 花火大会事故・北海道広尾町 幼児殺傷事件・尼崎市 小1男児虐待殺人事件・神戸市 中国自動車道 中1少女死亡事件・黒磯市 小2女児連れ去り事件・伊勢原市 母娘殺害事件 他。  

 夏休みだけでも、これだけの大事件が起こってしまって本当に残念ですね。何度テレビの前で涙を流したかわかりません。

   最近、子どもが被害に遭う凶悪な事件が確実に増えてきていますが、6月の大阪で起きた小学校襲撃事件の後は、事件のニュースを見ながら、涙が止まらなかった、一体どうしたら子どもを守れるの?、そういう声が私たちの実施したアンケートにたくさん寄せられました。

   私たちが主催している「子どもの危険回避研究所」は、ネット上に2年前に設立したバーチャルな研究所ですが、奇しくもあの大阪の事件が起きる直前からほぼ一ヶ月間アンケートを実施したため、750名もの子どものいる方々の生の声が集まりました。もともと「なんだか子どもが被害者になる犯罪が凶悪化していて不安だなあ」と思っていたところへこの事件ですから、親たちの不安感や怒りは一気に爆発した感がありました。

◆世の中危険だらけ! 不安に打ち克つには不安の実態を知ること

 事件が起きて心配になり世の中を見渡してみると、「子どもを取り巻く危険」には、ありとあらゆる種類のものがあることに気付きます。しかも親の目から見ると、犯罪も事故も災害も「子どもに関する危険」として心配度は同じです。
 例えば、子どもの留守番中に泥棒が入ってきたら? 自転車で交通事故にあったら? 大地震がきたらどうなる? どれも同レベルで気になるのです。
 そこで、私たちの気になる危険を私たちなりに分類してみたのが、次の図です。

   ☆現状での「子どもの危険回避研究所」の「子どもを取り巻く危険の分類図」(情報索引ページより)


   何がどう危険なのか「危険の本質を見極め」、「事前に行うべき危険回避術」「災害に遭ってしまった場合の対処法」を楽しみながら学べ、そのことにより前向きに不安に立ち向かえるようにしたい。そのために良い情報を集めてサイトで紹介することが研究所の活動目的です。補足しなければならない危険もどんどん出てきますし、全ての項目について良い情報を得るのは想像以上に難しいので、研究所の存在価値はあると思っています。




◆正解がない。私たちは何もできない?

   私たちは安全教育の研究者ではなく普通の親なので、不安に思うことを挙げ、それに対しての良い解答を書籍や論文、ネット上で探す、また読者の方から「私の対策」を募り、そこから良い危険回避術をみつけていこうとしました。しかし、それでもわからないことがあります。
 小学生の子どもがいる私が一番気になることは、「留守番中の子どもをどう守るか」ということです。私たちが実施したアンケートで、3歳の子の30%が留守番の体験があり、その50%が居留守を使っています。10歳になると、ほぼ100%の子が留守番を経験しているのですが、小4になって学童保育を卒業したら、もう安心なのでしょうか?
 今後働く母親や、離婚家庭も増えていきます。留守番をする子どもたちも増えていくでしょう。


○資料:タイトル「子どもの現在年齢別、留守番経験有りの比率の推移」
子どもの危険回避研究所アンケート結果より(2001年6月〜7月実施 750名)

 そこで、複数の専門家に「留守番中の来客には応対したほうがいいのか、居留守を使ったほうがいいのか」をメインにお話を伺いました。そしてそのお話をまとめてみると、、、「普通は居留守を使うよりも、きちんと対応させた方がいいだろう。留守だと思って入った空き巣狙いに殺される可能性がある。でも、子どもが応対したことで殺されてしまう可能性も大いにある。チェーンをして対応しても、すぐ切られるし、防犯カメラは、誰かが見ていないと意味がない。最近の犯罪は凶悪化しているので、いても殺すことが多くなっている。いかなる防犯をしても、子どもが巻き込まれる犯罪がなくなるということはない。」ということでした。  これには、私はかなりショックを受けてしまいました。正解は無いというのです。

   確かに子どもの留守番には危険な面があります。アメリカのように12歳未満の子どもに留守番をさせたら虐待として逮捕される地域もあり、日本もそうなっていくでしょう。  でも、それまでには時間がかかります。それまで留守番をする子どもたちができるだけ恐い思いをしないですむような策を考えたいのです。

 ただ不安でいるよりも、こういう危険性があるから、こう対処しよう、と具体的に何かアクションを起こすと不安は軽減するのです。その何かを教えて欲しい!



◆安全教育は、それぞれの立場や環境によって違う!

  私が無力感に苛まれている時に、お話した方が「あなたは事件を一つのサンプルとして見ていない。そこが専門家とは違う。親であるあなたならではの思いや考えは価値がある」と言ってくれて、私はようやく再度この問題に挑戦する気になりました。

   私はライフワークとして、2年前からこの難しい問題に取り組んでいますが、ただただ子どもたちを被害者にも加害者にもさせたくない、子どもの危険回避能力をアップしたい!(直観力、想像力、判断力、瞬発力、応用力を身につける、経験値をあげる)その思いがあるだけです。その思いは、誰にも負けないと自信を持っていいのです。

   ここまできて気がついたのは、発信する側、見守る子ども、それぞれの立場や環境、性格や成長の度合いによって、言うべきことが部分的に違ってくるということです。そして結果は一様ではないので、一番身近な大人が状況を慮って判断した事前教育をし、その人が責任を持つべきだということです。本来は親がこの立場にあります。そこに頭がまわらなくなっていたので、私は混乱してしまっていたのです。

 そんな時、私の友人野口夫妻が、小1の息子しん君が鍵を忘れたのに誰にも相談できずに彷徨して、結果的に一時的に行方不明になったのをきっかけに夫婦でオリジナル手作り絵本を作りました。  息子であるしん君に成功の疑似体験をさせる内容です。鍵がないことに気がついてから、前からママに言われていたように近所のおばあちゃんちに行った→でも、いなかった。公衆電話でママの会社に電話しようとした→でも公衆電話が壊れていた。という風に今までの「教え」に忠実だったこと、だけど「いつもその通りにはならないこと」をイラストと文で説明。その後、問題点は「同じマンションの知り合いのおばさんに何度も会いながら困っている状態を相談できなかった」ことだとわかるように話は進みます。絵本の中のしん君は、恥ずかしくても、2度目におばさんに会った時に勇気を出して事情を話して、電話を貸してくださいとお願いすることができ、最後はママにも褒められて「がんばったね!」で終わっています。しん君に何度もこの絵本を読んで聞かせると、「宝物にする」とうれしそうに言ったそうです。


(☆しんくんの絵本)

 ママの文章とパパのイラスト。これは素晴らしい絵本でした。両親ならではの気持ちが溢れています。これこそが最高の、親による「私の手作り安全教育」だと目が覚める思いでした。

 このような良い例を皆さんにお見せするのが、私たちの役割だと再認識することができました。



◆身近な人が作る「私流安全教育」の注意点

●子どもの目線でシミュレーションしてみること!

 前述の「しん君行方不明時」に偶然居合わせた私は、子どもが、恥ずかしいという理由で、助けてくれそうな知人と会ってもしゃべることができない場合もある、ということに全く気付きませんでした。彼のママと共に、その時のしん君の切ない気持ちを感じてショックを受け、子どもと同じ目線で見て対策を考えることの重要性をしみじみ感じました。  対策は一通りでは足りません。この場合は? こうだったら?色々親子で考えて事前に話し合っておきましょう。そういう訓練をすることで、違う場合にも対応できる応用力や想像力が養われると思います。  

●親子でストレスをためないように!

ただ、「こんなにひどい事件があった」という話をして親が不安そうにしていると、それだけでストレスになる子どももいます。親の方も、不安の元である子どもがいなくなればいいのにという深層心理から虐待してしまうこともあるといいます。親子でストレスをためる結果にならないように極端にならないように注意が必要です。

 実際私もこの部分で失敗がありました。長男が急に「恐いニュースを夜見ると寝つきが悪くなるから見たくない。あまり悲惨な話も普段から聞きたくない」と言ったのは、小6の頃でした。私が手術、入院をした後だったことも影響していたかもしれず、かわいそうなことをしたと大変反省しました。私がどこか悲観的だったと思うのです。

   アンケートでも、「もうどこにいても不安だから、子どもは家に閉じ込めておくしかない」と書いた方があり、心が重くなりました。

◆やはり普段の生活が大切。それには親の成長が不可欠

 危険については、常に新たな情報を取り入れながら、不安に流されないように自信を持って生きていきたいと思います。安全教育に完璧はないので、その辺の見極めは自分でする必要があります。  が、こうしてこの文章を読んでいただくと、この一連の紆余曲折で、私自身が少し成長したことに気付いていただけたと思います。親もこうして育っていくのです。焦る必要はありません。子どもの方が、自分なりの経験を元に成長している面も大きいのです。

   雨の日も公園で遊んでいて帰ってこない小6の次男に「風邪をひかなかった?」と非難がましく言うと「おかあさん、なめないでよ。雨に濡れたくらいで風邪をひくようなやわな身体してないよ。急に降ってきたら電話ボックス、続いたら近所の友達んちに避難するしね」と笑いながら言われてびっくりしたのもこの夏休みでした。

   そして最後に言いたいのは、実は普段の生活が一番大事だということです。何を調べていても、できるだけ規則正しい生活や食事をすること、丁寧に生きること、日々の感謝の気持ちが大切だなあとという結果になるのです。
 意外と難しい課題で、私もまだまだなのですが、親のそういう心に接している子どもは安心して、遊びやアートの世界でのびのびと羽を広げることができるのではないでしょうか。

では最後にアンケートで危険だと思う場所と、実際に危険な目に遭った場所についての結果をまとめたグラフをご覧ください。


○資料:タイトル「危険だと思う場所と、現実に危険な目に遭った場所」
子どもの危険回避研究所アンケート結果より(2001年6月〜7月実施 750名)


 左から危険だと思う人が多かった場所順に並べています。あなたは何を感じますか? あなたのお仕事の管轄は含まれていませんか? 何か子どもたちにできることがないか具体的に考えてみてください。 自分の子どもだけではなく、世界中の子どもを皆で見守っていきたいですね!

   今回部分的にお見せしたアンケートを元に年内に学研から本を出版します。また、サイトの方もご覧いただき、ご意見などいただけると幸いです。